【読書】 中満泉 「危機の現場に立つ」

 

今をときめく先人の自伝を読んでインスパイアされようと、中満泉さんの本を読みました。

 

危機の現場に立つ

危機の現場に立つ

 

 

最近発売された本で、著書の中満泉さんは、2017年5月に国連の軍縮担当事務次長に就任。事務総長、副事務総長に次ぐポストで、現在国連で働く日本人トップです。

個人的に、NY在住中に国連の皆さんとお話する際によくお名前を聞いた有名人だし、ちょうど私もNYにいる時にご昇進されたりと、何かとお名前を目にする機会があります。

また、NYの国連でインターンしていた際に、一度だけたまたま行った会議で中満さんがお話されているのを目にしましたが、強く上品なオーラを目の当たりにできました。

 

そして本を読んで、やっぱりすごい、どんな自己啓発本にも勝るパワーをもらいました。

中満さんが(それを直接的には書かないものの)とんでもなく頭がキレる上にコミュニケーション能力が高いこと、さらに仕事をする上で多数の素晴らしい人に出会ってきたことが読み取れます。またご自身が現在素晴らしい上司・妻・母であることが想像に難くありません。

プレッシャーもすごく辛い状況も多々あって、普通の人だったら嫌になってしまったりストレスに押しつぶされたりしてもおかしくないのに、常に前へ前へと進まれ続けたことで、国連で今の位置まで上り詰められた中満さん。

そのおかげで、多数の日本人(にとどまらず、世界中の女性・男性)は中満さんというロールモデルを心に思い描けるのです。

 

 

いろいろと印象に残るエピソード満載なのですが、特に心に残った3点について紹介します。

 

1.人道支援と開発

私が個人的に関心の高い、開発と人道支援のはざまのあたりのことに関連して興味深かった点です。

ずっとUNHCRやPKOといった人権・安全保障系だったのに、ヘレン・クラーク総裁(当時)からの引き抜きでUNDPに移った時の話がありました。

当時のUNDPは長期的な視点で開発を進める組織である分、いろいろと活動が遅いという印象があったりと、中満さんにとってはあまり働きたいと思わない組織だったとのこと。ただ、クラーク総裁が改革として「危機対応局」を新設し、開発機関として「危機」にも対応する組織にならなければならないという考えを持っていることに共感したこと、そして

「今日の紛争はなかなか終わらず、状況が安定するのを待ってから中・長期的な復興と開発支援に取り組む、という従来のアプローチは機能しなくなってしまった」

と考えたこと、によりUNDPへの異動を決心したそうです。

そうして着任してから、UNDPが危機に対応する際に「これはUNDPが必ずやってくれる」という分野(例えばUNHCRなら難民、UNICEFなら子ども、というような)を明らかにすることで人道支援機関やPKOミッションから信頼されるパートナーになるようにする必要性を感じた結果、その分野を「緊急生計支援」と「行政機構の緊急復興」として打ち出したとのことです。

 

なるほど。危機対応の状況において「ここは何ができます!」というのが必要なんだな、そういうのでパワーバランスが生まれるんだな、と納得しました。

 

 

2.教授の視点から

また、 一橋大学の大学院で教授をされた経験から、学問として様々な事象を分析して体系化・概念化することの重要性、そのための理論研究を重視しなければならないとの点も納得しました。 

国際関係論や国際政治などの理論研究にも興味を持つように(中略)。学問の中で理論研究はとても重要なことであると思っています。一見関連性のないさまざまな事象を分析して体系化・概念化し、整理して理解するためのツールが理論だからです。

いろいろなところで仕事をしてみて、国際機関でも仕事のできる人は、この概念化作業に長け、雑多な事象を体系的に捉え、一見なんの関連もないところでの教訓をほかのところでうまく応用できる人だと感じています。(中略)ですから、若い学生たちが理論研究を軽んじて、分析力を身につける以前にともかく現場へ、という風潮には若干疑問を持っています。 

  

なるほど。大学院で国際関係学を勉強したけれどまだ全然足りていないし、学問は日進月歩なので今後も勉強し続けなければ。「現場の人間だから」と割り切らないで、国際関係学をずっと学んでいこうと思いました。

 

 

3.日本について

国際社会で長年働き、でも日本人としてのアイデンティティも持っている中満さんが、日本について心配に思うことに書かれていた部分が、私がいつもモヤモヤと思いながらもうまく言語化できていなかった分、とても共感ので一段落抜粋します。

 

一方で、規律を尊ぶ私たちの社会は、時として柔軟性に欠けることにもなりかねません。規則を守ることは大切なことですが、物事の本質を見きわめて柔軟に対応することも、変化を重ねる世界では不可欠ですし、時には規則そのものを見直す必要があるかもしれません。いろいろな事態を想定して丁寧に準備を重ね、マニュアルを完備することは役に立つことも確かですが、同時に「想定できない」事態に対応する能力を育てることも大切なことです。「出る杭は打つ」のではなく、さらに活躍できるように応援するべきでしょう。また和を尊ぶ私たちの気質は、「長い物には巻かれろ」という諺のように、何か間違ったことが起こっている時であっても、声を上げてそれは間違っている、と指摘して変えていくことを私たちにためらわせることにもなりかねません。昔の日本が間違った戦争に突き進んでしまった背景には、みなが「長い物に巻かれてしまった」こともあったのだと思います。

 

私が個人的にも「日本人的で」ルールを守るのに固執して柔軟性に欠ける部分を直さなきゃ、と思っているのと、そして国としても日本社会が「長い物に巻かれ」やすくて、おかしなことを是正しにくい空気があり、しかもその傾向がどんどん強くなっているのことを心配しているので、とても共感しました。

中満さんのように海外生活がかなり長くてライフパートナーも外国の方で、という立場でも、やはり日本のことは憂うしよりよくなってほしいという願いがあるということ。世界レベルのリーダーがそうあることを心強く思うし、私も見習って常に日本のことも考えていきたい、と思いました。

 

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以上挙げた3つは、個人的に心に特に残った部分ですが、もちろん中満さんのキャリアの始めの頃のあたりや、旧ユーゴスラビアでの奮闘等、読んでいて顔が真っ青になるような話、私ももう少しがんばらねば、と思うような文章が満載です。

 

分野を問わず同年代の皆さんすべてにおすすめしたい本です。