【読書】 伊藤詩織 「Black Box」

伊藤詩織さんによる、元TBS記者の山口敬之氏から受けた強姦被害の前後についてと、

こういったことが「どう起こらないようにするか」

「起こってしまった場合、どうしたら助けを得ることができるのか」

を語った手記、Black Boxを読みました。

 

Black Box (文春e-book)

Black Box (文春e-book)

 

 

著者の伊藤詩織さんは、2015年4月に元TBS記者の山口敬之氏からレイプ被害を受け、警察に告訴し、準強姦容疑で捜査されたものの嫌疑不十分で不起訴処分に。今年5月に検察審査会に不服の申し立てをしましたが、9月に「不起訴相当」の議決が出たところでした。

詩織さんは、警察が「よくあることで捜査するのは難しい」となかなか被害届を出させてくれなかったこと等から、「警察にも検察にもたくさんのブラックボックスがあることがわかった」とのコメントをしました。

 


 

普段お酒に強い詩織さんが、意識を失うはずのない酒量で意識を失い完全に記憶が抜け落ちるという状況から、デートレイプドラッグを盛られたのではないかという疑念があります。 

 

詩織さんを糾弾する目的で冤罪だ、という人がいたり、中にはハニートラップとか美人局だとか言う人もいるそうです。

でももし仮にデートレイプドラッグ使ってなかったとしたって、お酒飲んで意識ない人に勝手に性交渉を強いたらレイプ以外の何物でもない。

(状況からそういう風には考えにくいけど、)百歩譲って自分で沢山飲んで泥酔したとしても、誰からも「レイプされていい」理由にはなりえません。

 

いずれにせよ、このような公表することは詩織さんにとって、つらく苦しく恥ずかしいことだらけであり、しかも昔からの夢であったジャーナリストの仕事を日本ですることが困難になるリスクにも直面しながら、詩織さんは顔と名前と共に公表しました。

このように真実を求め正義の為に信じられないような勇気を出したその彼女を更に叩こうとする人たちがいることにひどく悲しくなります。 

 

政権批判と密接に繋がりすぎてしまった 

さらに、この件、政治的なポジションから詩織さんを一生懸命叩く人たちがいるのも気になりました。

なぜなら山口氏が安倍総理に近いところにいて、安倍総理の「御用記者」と呼ばれているような立場の人だから。

 

でも、詩織さん自身は別に政権批判とか本の中でもしていない。

周りに勝手に現政権批判の構図を形作られて、そのせいで問題なことに、詩織さんを擁護することが政権批判とごっちゃになって必要以上に政治的な話になってしまう。

もちろんそういう要素はあるのかもしれないし(逮捕直前まで行ったのに警察の「上からストップがかかった」せいで取りやめになったこととか)、政治と繋げる人の考え方も人それぞれだし、司法の機能に何か後ろ暗そうなところがある部分は徹底的に究明が必要だと思うけれど、

 

なんとなく

 

詩織さんを応援する人=政権批判

逆に

現政権を一生懸命応援したい人⇒詩織さんを叩く

 

となっているせいで、普通にレイプ被害を受けた人の側に立つことがそれ以上のイデオロギーを帯びてしまうおかしな雰囲気があるような。

 

何が言いたいかというと、レイプ被害を受けた人を応援するというのは普通のことなのに、なんとなく政権に楯突きたくない人にとっては自重するような力が目に見えないレベルで働いているとしたらすごくおかしなことだ、ということです。

 

そしてそれが、メディアもそういうとこありそう、と思って暗くなるのです。

 

いずれにせよ、繰り返すけれど、この本を読むと詩織さんの目的は政権批判ではないとわかります。

司法の在り方と、おそらくメディアの在り方にも疑問は投げられてると思うけれど、必要以上に政治的なポジションを述べる為の道具にしたのは、完全に詩織さんとは関係ない人たちなんだとわかりました。

 

「未来について」の本 

話は変わって、 他に読んでて思ったのは、

山口氏がこれまでの社会生活を送ってきた過程で、彼の周りの人は、この人がそういう人だとわかる言動・エピソードを持っている人がいると思うんだけれど、でも誰も声を上げないなあ、ということ。

 

こういうこと言うと「冤罪の可能性は考えないのか!」とまた言われそうだけれど、

事実だけで考えたとして、

  • 一人で歩けない状態の女性(しかもタクシーの運転手の証言では何度も「駅で降ろしてください」と言った)を病院じゃなくてホテルに連れ込んだ(防犯カメラの映像)
  • その上で避妊具無しで、無意識の間(ここは山口氏は否定)に性交渉した
  • 後日、詩織さんが無意識の時に嘔吐したことを指して「ゲロ」という言葉を必要以上に連発する下品で相手を貶めるメールを送った(メールが証拠。そしてホテルのハウスキーパーの日誌に、部屋に吐しゃ物に対する特別な清掃をしていないという記録が残っている。)

 

というようなことをする人柄であることを、「うんうん、そうだよね」と思う人は身近にいたんじゃないかと思うけれど、それを口に出して詩織さんの側に立つ人がいない。そいうこと含め、本当に無念だな、と思います。

 

この事件は今後進展するのだろうか。すごく暗い気持ちになります。

 

同時に、「はじめに」にあるように、

 

私が本当に話したいのは、「起こったこと」そのものではない。

「どう起こらないようにするか」

「起こってしまった場合、どうしたら助けを得ることができるのか」

という未来の話である。それを話すために、あえて「過去に起こったこと」を話しているだけなのだ。 

 

と、この本は未来についての本。

 

今回いろいろと無念なことが多いけれど、事件後から警察への相談~逮捕状~不起訴まで、彼女が体験した不条理さ、セカンドレイプ、感じたつらさ、恥ずかしさ、絶望がこの本を通して社会に共有されたことの意義は計り知れないと思います。 

 

考えたくないけれど、もしも本件がこのまま闇に葬られたとしても、この本は日本の性犯罪に対する深刻な状況を改善する足がかかりとなる、大きなステップだと思います。

 

例えば、詩織さんが深い後悔をしながら綴っている、被害後すぐの行動のこと。

 

詩織さんが最初に行った先は婦人科だったけれど、開業医の婦人科にレイプキットが置いてあることはまずなく、レイプとデートレイプドラッグの両方の検査を行うには、救急外来に行くべきとのこと。それでドラッグが盛られていたか、すぐに検査してわかれば、かなりの証拠になるはず。

 

とはいえ被害にあったらものすごい混乱状態になるから、警察に届ける等の判断はすぐにはできないものだけれど、この点、本の中でも紹介されているように、例えばスウェーデンではレイプ緊急センターという24時間365日レイプ不会社を受け入れるセンターセンターがあり、被害者はまずはここで検査や治療、カウンセリングを受けられるとのこと。レイプきっとによる検査は被害後10日間まで可能で、結果は六カ月保管。そして被害者は、一連の処置の後に警察へ届を出すかどうか考えることができるそう。

「この制度のおかげで事件に事件に遭った人は、すぐに警察に行かなかった自分を責めたり、どうしてすぐに警察に届け出なかったのかと周囲から攻められたり、これおでは何もできないと当局から突き放されたりしなくて済む。」

とのこと。

 

あと、加害者のDNAが付着している可能性のある衣服はすぐに洗わないことも重要。

 

こうしたことを、きっと小・中・高・大の学校の場で教育される、ということも重要だと個人的に思いました。

もちろん、男女共に対象に。

  

男性も被害に遭うケースは沢山あるし(そしてその大部分が闇に葬られているのでは)、最近は House of Cards のケビン・スペンシーが男の子の子役にセクハラした件も大きく報道されました。


 同時に、どうしても様々な理由から女性の方が被害を受けやすい状況にあること、そして一度受けた被害が人生に及ぼす、あまりにも大きい打撃のこと、男女共に知っておくことが大切だと思いました。

 

キャリア構築の努力への裏切り 

あとまた少し話変わりますが、キャリア構築途上の人間として、一歩一歩ステップアップしていきたいとの気持ちから、キャリアの相談をしたことに付け込んで利用されたこともとても腹立たしく思います。

事件当日に会ったのも、TBSワシントン支局のプロデューサーのポストを検討できるとメールで発言し、その具体的な話を進めようとするような流れからだったようですが、その前後の状況を見ても、山口氏が本気で仕事のポストを本気でアレンジしようとしていたのか、できたのか強く疑問に感じます。 

こうした流れから、詩織さんが「キャリアの為に利用しようとした」とか「コネで仕事取ろうと色仕掛け図々しい」などと批判する人もいるみたいですが、最初に詩織さんが山口氏に聞いたのはインターンのポストだし、そういうことをネットワーキングで知り合った人に伺う、というのは王道の方法(私もこの方法で、インターンを獲得したことがあります)、特にアメリカという要素も加わり言わずもがな、と思います。

それを逆手に取って、必死でキャリア構築しようとしている人の気持ちをズタズタに踏みにじる行為は果てしなく卑劣だと、やるせない気持ちになりました。

 

世の男性への言われなき中傷

 

Amazon のレビューや Twitter での意見を読んでいると、たまに

「男性と二人で飲みに行ったんだから、そこから先は自己責任」

みたいなのを目にします。

なんてことだろうか・・・

 

キャリアの相談を受け、それに親身に対応してくれる人の大多数は、性別問わず、それを利用して人に性的暴行を働こうなんて思っていないはずです。

私や私の友人たちがキャリアの相談、またそれに限らず一緒に飲食を共にした尊敬すべき先輩たちがみんな、男性であるというだけで「一緒に飲みに行った女性が、本来『気を付ければならない』相手である」なんて決めつける発言は、失礼極まりないことだと思います。

こういう批判をする人が社会にいるという事実が、今後キャリアの為に誰かに相談しようとする若者や、またその相談を受けたいと連絡を受けた男性の行動を制限するものに決してなってほしくない、と思います。

 

ウェブ上の匿名の意見にあまりイライラする意味はないとはわかっているものの、そういう発言をする人は、これまでの社会生活でどういう人間関係を築いてきたのかな、と思わずにはいられません。

 

 

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とりとめもなく書いたけれど、まだまだ書ききれない重要なポイントが沢山あります。

  • 警察の取り調べで、「よくあることだから立件が難しい」と言われたり、示談を進められる
  • 取り調べや法廷でのセカンドレイプの問題
  • レイプ事件の大部分を占めるのは、顔見知りの犯行
  • 被害者は、おとなしくて泣いていて怒っていて弱いという「被害者らしい」イメージを求められる
  • 被害者は「死ぬ気で抵抗する」ことも求められがちだけれど、多くの被害者は被害の最中に体が動かなくなる擬死症状が出る
  • 「Noと言わなければNoではない」ではなく、「Yesがなければ同意ではない」という社会に対する教育が必要
  • メディアの報道の公正さ。報道自粛の真相

等々

 

衝撃を受け、深い怒りと悲しみを感じるので読むのはつらいけれど、

著者の勇気に答えるために、明日の日本の安全のために、

多くの人に読んでほしいと思いました。

 

 

(後日記)

日本の大手メディアでの報道が十分でないと指摘されている中、2017年12月29日、ニューヨークタイムス紙に踏み込んだ記事が掲載されました。

www.nytimes.com