【読書】 米川正子 「あやつられる難民――政府、国連、NGOのはざまで」

難民問題、大学院の専門とはちょっと違うけど勉強しなきゃと思っており、この本を読むことにしました。

 

あやつられる難民 ──政府、国連、NGOのはざまで (ちくま新書)

あやつられる難民 ──政府、国連、NGOのはざまで (ちくま新書)

 

 

タイトルの通り、難民が政府や国連、NGOの大きな政策・流れの中で「あやつられる」立場となり、自分の意思とは違うところで運命が決まっていってしまう、ということがよくわかりました。今の世界をとりまく難民政策と国際機関・政府・NGOの役割に対して強く警鐘を鳴らす、読み応えのある本です。

 

一方で、現在の体制への批判的な見方とのことなので、読んだら気が重くなるかな、と思いながら読み始めはしたのですが、そういう心構えがあってもやっぱり批判がとても大きいということに驚きました。

 

例えば、

残念ながら、UNHCR職員の多くは、難民保護より自身のキャリア(昇進とサバイバル)を重視していることは事実だ。

という指摘。

ただそういう要素はUNHCRに限らず国連、というかNGO等含めこの業界(他の業界も?)には沢山あると思うけれど、一人一人が結局のところ

「自分が使命としてやること・社会に貢献するつもりでやること」と

「キャリアを構築すること」

のバランスを取り、自分の中で一番のバランスの部分を探りながら仕事しているのだと思うので、「多くの人がキャリアの方を重視」という言い方は乱暴では、と思ったんですが、こういう記述が頻発し、著者によるとそれは「難民を利用してキャリアを構築する」とのことでした。

 

あと、UNHCRの高官が現場出張する時のことについて。

そういう出張は難民問題を肌で理解し現場の関係者とやりとりすることが目的なのに、一方で

UNHCRの現地代表や本部の地域担当者などのキャリアが評価される場でもある。なので、現地代表らはなるべく都合の悪いことを隠すようにベストを尽くす

と書かれていて、あー、そういうことはきっとあるのだろうな、という気持ちと、逆に言うとそれはどこの組織でも(民間セクターでも)多かれ少なかれそういった側面はあるのだろうな、ということです。

それを前提として、例えば私の友達の難民の勉強してきた人たちがそういう現場に行って、そんなに自己防衛ばかりするとは思えません。むしろ志を持って働いている人は(それが何割くらいを占めるのか、私には結局はわからないのだけれど、そんなに悲観的じゃない)、そういう状況でその場の難民の状況の大変さをがんばって伝えるのではないかと思いました。

 

 

これらに限らず本全体にわたって批判が多すぎて逆に中立性を欠いているのでは、

という思いから、途中から少し内容の本筋に集中できないことが度々ありました。

 

同時にもちろん、いろんな場面で志をくじかされることに沢山直面してきた米川先生だから言えることが多々あるのはわかるし、もしかしたらここにも書ききれないもっとひどいこともあるのかもしれないし、現場で前線で活躍してきたから見える非常に重要な指摘が沢山あるのだと思います。

今の日本でここまで難民の現場に深く切り込める人は他にあまりいないのかもしれません。中立的な研究者の立場だから、ここまで厳しく言えるのだと。

また、これまでご自身が携わってきたこと(主にUNHCRの仕事)についてかなり自分に厳しく反省している姿勢も、なかなかできるものではないと思いました。人にも自分にも厳しいのが徹底されていることに頭が下がります。

 

難民支援の現場で働いている他の人の意見を聞いてみたくなりました。

また、難民について学ぶのに良い本・論文があったらぜひおすすめしてほしいです。