【読書】 プク・ダムスゴー「ISの人質」(山田美明 訳)

 

こういう仕事だと赴任の前にも着いてからも、そして出張に行った各地で安全管理の説明を受け、ことあるごとに「気を付けて!」リマインドされるのですが、

この前はさらにもう一歩上のレベルで実習を織り交ぜた五日間の安全管理トレーニングに参加するためにケニアに行ってきました。

Hostile Environment Awareness Training

の頭文字を取って、HEATというトレーニングです。

(ちなみにこのトレーニング、私はスーダンに時々出張に行くので受ける必要がある、となりました。でもスーダンでも特に危険そうなところ(ダルフールとか)には行かないのですが、そうかと思えばプロジェクト実施地域でも少し前にWFPの倉庫襲撃事件があったりやはり注意は必要です。)

 

このトレーニング、詳しくは述べませんが本当に激しく危険な状況を想定した実践的なもので、心理的・体力的に負荷がかかる実習が組み込まれています。

銃撃戦に巻き込まれたり

地雷原に放り込まれたり

人質に取られたり・・・

という時にどうするべきか、また負傷した時の応急処置の方法等、いろいろ満載でした。

激しい(執拗な?)実践トレーニングで、他の二人の女性参加者は泣いちゃうくらい。私はいろいろ驚いたものの泣きはしなかったですが、その日の夜はやっぱり殺されそうになって逃げ続ける夢を見たり。

 

…前置きが長くなりましたが、こうして安全意識が最高潮に高まった段階で、

前から気になっていた「ISの人質」という本を読みました。

ISに13か月の間拘束された後に解放されたデンマーク人ジャーナリストについての本です。

 

ISの人質?13カ月の拘束、そして生還? (光文社新書)

ISの人質?13カ月の拘束、そして生還? (光文社新書)

 

 

  

拘束されたダニエル・リュー氏は、元デンマーク代表体操選手で、シリアを取材旅行で訪れた時にISに拘束されてしまいました。

 

それからの13か月は、

拷問されたり、

逃走したけれどまた捕まったり、

不衛生な場所で十分な食事を与えられない生活が続いたり、

他の欧米人と一緒の部屋に詰め込まれたり、

いろいろ語れる友人ができたり、

厳しい中でもユーモアの心は忘れなかったり・・・

 

 

そして、家族は身代金の工面のために奔走します。

言わずもがな、ISが要求する巨額の身代金を払ってしまったら、それがISの収入源となって武力活動の拡大を支援することになってしまいます。だからデンマーク政府は身代金を払わないという確固たる方針を持っており、家族に金銭的な援助を一切しませんでした。だから家族が苦労しました。

 

でも家族が集められのはまだよくて、アメリカとイギリスの場合は人質の家族がテロ組織と交渉することも違法であり、身代金を自力で調達することもできないという状況でした(デンマークでも違法だったものの、当時ISISがまだテロ組織のリストに加えられていなくてグレーだった)。

だから実際に、ダニエルと同じ部屋に捕らえられていたアメリカとイギリスの人質たちはカメラの前で首を切られて殺害され、そのビデオはYouTubeで世界中に流れされてしまいました。

※ちなみにその後、2015年にオバマ大統領が法律を修正し、家族が身代金を調達しても起訴されることはなくなりました。

 

いずれにせよ、アメリカもイギリスもデンマークも、政府が身代金を払うことはありません。というか世界の主要国の間でも、テロリストに対する身代金は払ってはいけないというコンセンサスが2013年のG8サミットでなされているのですね。

下記コラムに紹介されています。

 

そして日本も、2015年に後藤健二さんと湯川遥菜 さんがISILに人質に取られ身代金を要求された際、払いませんでした。

 

その結果人質が殺されてしまうというのは、言葉が見つからないような恐ろしいことです。しかしテロリスト組織にお金を流入されるとさらなる暴力が生まれるし、テロリスト側も身代金が集まることがわかったらどんどん外国人を誘拐して資金源にするはず。だから実際に誘拐はまだ後を絶たないし、「身代金ビジネス」なんて言われるゆえんです。

 

一方、フランス政府は、公式には認めていないものの、国有企業などの営業活動による資金を利用するなどしてこれまで多額の身代金を支払っているとのこと(それが国有企業の利益にもつながる)。一説によると、2008~2013年の間にフランスはアルカイダ関連組織に5,800万ドルもの身代金を払ったとのことです。

本の中で、ダニエルと同じ部屋にいたフランス人達4人はダニエルより先に解放されて、フランスに到着すると大統領や外務大臣らの歓迎を受け、オランド大統領は

「フランス政府は、彼らを解放できたことを誇りに思う」

と記者団の前で言ったとのこと。

あーなんだか…

 


 

 

でも私だって誰か友人が人質に取られたらできる限りの寄付をすると思うし、

ジャーナリストたちに「危険な場所に行くな」というのも無理があると思います。

そういう人たちの報道で、何が起こっているのか世界に伝わるのだし。

でも同時に、本当に危険で人質に取られるような場所には行かないでほしいとも思うし、「伝えなきゃ」という意思の強いジャーナリストを止めるのも難しい。

しかしテロリスト組織にお金が流れるのは避けなければいけない。

でももともと、そういう憎しみが生まれる背景には、大国の思惑で大きなお金が流れたり長引かせられた紛争があったりしたわけで…

資源がある国は思惑が交差して…

みんなが他の国のことはとにかく放っておけば世の中平和になるのでは。(こんな仕事してるのに)

 

そういうことを悶々と考えさせられる読書でした。

 

ちょっと夢に出てくるかもしれないけれど、世界で起こっていることの一端を生々しく感じるのに良い本です。

 

 

ちなみにダニエルは、その後TEDでも喋っています。どんな状況でも、人はある程度適応しちゃうんだ、という内容。

あんなに極限の状況で、日々殺される恐怖と闘いながら13か月も拘束された後、(もちろん様々なPTSDは残っているのだろうけれど)一見健康そうで人前で話すことができるというのは奇跡のようだなあ、と思いました。

 

 

 

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ところで、これを書いている今まさにスーダンにいます。

首都から離れフィールドにてインターネットのない週末、窓のない薄暗いホテル、錆びたシャワーヘッドから出るのは茶色っぽい水のみ、鉄枠のベッドにペラペラのマットレスの上で、時々停電で真っ暗になりながら書いていて、雰囲気抜群です。

外に出たら出たで毎日40度超え、「ちょっと散歩に行こう」というのが命取り…(’▽’)

 

なんか恐ろしい内容だったので、最後はおいしかった食べ物を紹介して締めくくることとします。

 

 

スーダン式朝ごはん。と言ってもお昼頃食べます。みんなでワイワイ食卓を囲んで、すべて指で上手にちぎって食べるのがポイント。

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ナイル川の魚をカラッと揚げたてで。ライムと比べるとわかるけれど、かなり大きいです。ほとんど砂漠地帯で砂だらけ岩だらけなのに、世界最長の川がすぐそばにあるっていうのがおもしろいです。

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③美容と健康に良いデーツ。私はデーツってねちょっとしたイメージで特に好きではなかったのですが、これは固くてカリッとしててお気に入り。出してくれた所で「おいしいですね」と言ったら持って帰りなよ、と一掴み持たせてくださり、入れるところがないので服のポケットにそのまま突っ込んで、その後忘れて、ホテルに帰ってから服脱いだらこれがボトボト落ちてきてギョッとしました。なんかちょっと違うものにも見える。

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おわり