【読書】瀬尾まいこ「夜明けのすべて」

 

久々に小説読みたい気分で、瀬尾まいこさんの「夜明けのすべて」を読んだ。

 

 

 

瀬尾まいこさんの本は、前に「そして、バトンは渡された」を読んですごくよかったのを覚えていて。

いじわるなことがない、心優しい人たちの物語というのが安心して読める感じ。

 

 

 

あと、テーマにPMS月経前症候群)の話があったから興味を持ったというのもあった。

この1~2年くらい、個人的にPMSが重くなった、とうか前より質が変わってきた気がして、前は月経前というより始まってから頭とかお腹がいたかったり、すごい眠気というのがその時々によってあったりなかったり、強かったり軽かったりしたのだけれど、最近は1週間前からのイライラの気持ちが強くなってきたという感じがして、気のせいかもしれないけれどやっぱり毎月続くなあと実感しているところ。

 

調べてみると30代半ば以降から、PMSがひどくなるのはよくあることのようで、特に忙しい世代であることもあいまって、精神的な面で出てくることは多くの人の悩みの種となっている様子。私ももちろんイライラしたくはないし、イライラがさらに大きくなるのを予防したり、言動に出ないようにするためにそれなりの努力を払わなくてはいけない状況と自覚している。

 

そういうこともあって関心を持って読み始めて、やはりおもしろかったのだけれど、PMSの部分は少しひっかかってしまった。

というのは、主人公はPMSによって抑えられない怒りが爆発してしまうことで悩んでいるのだけれど、その怒りが結構、

①理不尽

かつ

②怒りをぶつけられた男性は何が何だかわからない

(女性が対象の時もあるけれど)

…という形で描かれていて。

その怒りはリアルだから小説上の描写についてはさすがだなと思いつつ、ジェンダー課題に日々あれこれ思考をめぐらせている立場からすると少しひっかかってしまうな、という。

主人公本人も自覚しているように、なんでそんなことが怒りになってしまうんだろう?という内容で、周りから見るとなんで怒ったのかわからないという内容を突然他に複数の人がいる場で発現してしまっているから、これによって「女性は突然ヒステリーになる」「女性が男性に攻撃することは許されてる(と女性を叩く人にとっての格好の材料となる」「女性の怒りは生理のせいである」というようなステレオタイプが助長されるのがちょっとつらいな…という気持ちになった。

 

自分に置き換えると、イライラが出てきた時、それが月経前だからかなと思ったとしても、これまで全くなんとも思ってなかったことが突如としてイライラするということはまずなくて、もちろんこれまで疑問を持っていたり少し不満が溜まっていることが増大するという感じだし、その怒りについて「すべてホルモンのせい」で片づけられたらつらい。

それと同時に大前提として、その怒りは外に出さないようにすごく気を付けているということ。イライラしても、それを心に秘めながら仕事は涼しい顔で、家庭内ではなるべくよく休みイライラの種を取り除くといった対処法をとっているので、女性は生理前(中)は理不尽に怒るってわけではない。

 

だから、これを読んだ男性が、そして男性だけでなくPMSが軽かったり違う形で出てくる女性が、「女性の月経前のイライラは完全にホルモンのせいである。ホルモンに左右されているだけだから流せばOK」とか思わないでほしいな、と思ってしまった。また、多くの人は外に出さずになんとか自分をコントロールしているのがほとんどだと思うので、それもなしに「女性は生理だとすぐイライラして外にぶつける」とも思わないでほしい。その背後にいろいろある。

 

同時に、私もPMSや月経が本当にひどくて私なんか比べ物にならないほど苦労している人たちのことはわからないから、その点については想像力が及んでいないところもあると思いつつだけれど。

 

前半のPMS発現についてはそのように思ったけれど、まあそのひっかかりは置いておけるくらい、本全体としては、とても良い本で読んでよかった。

自分の中のテーマの一つである、「誰がいつ社会の中で弱者になるかわからない。強い人だけの論理で社会を回してはいけない」というのをまた改めて実感できる読書だった。

「若いのにやる気がない、なんだああなのか、もうちょっとがんばれ」とはたから見れば思ってしまうような場合でも、何か事情はあるかも、そういった想像力をみんなが持てる社会になるために、たくさんの若い人にも読んでほしいなと思った。

そして、大変な重たいものを背負っている人たちの話だけれど、優しさと愛が溢れていて、意地悪さが皆無なのも読んでて心が温まる作品でした。