【読書】 イ・ミンギョン「私たちにはことばが必要だ」

 

生きているといろいろな状況に出くわすけれど、その中で特に、男女差別の発言をぶつけられた時にそれに対応する(かしないか)には「言葉が必要」で、どういった対応がありえるのか、とわかりやすく書かれている本。

 

私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない

私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない

  • 作者: イ・ミンギョン,すんみ,小山内園子
  • 出版社/メーカー: タバブックス
  • 発売日: 2018/12/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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説明するしないの自由は私にある

私もやっぱり女性として30年以上生きていると、嫌な言葉投げかけられたり、悪気がなくてもモヤモヤさせられる発言がなされたり、それが私一人対象でなくて大勢の場で言われて、納得いかないけど笑顔でやり過ごしたりということがあったのだけれど、この本を読んで、一度立ち止まって改めて、その怒りや、怒りまでいかなくても「モヤモヤ」になった時の気持ちがより整理できるような気がした。

 

特に、仲いい友人や、本当は好きでいたい仕事仲間とかにそういうこと言われると、どうしても「(私の考えを)説明しなきゃ、わかってもらわなきゃ」みたいな気持ちになるけれど、人それぞれの正解は違うということ以上に、別にこちらが無理して説明する必要もないということがあらためてわかった。

「あきらめる」というとネガティブであるけれど、フェミニズムの話は本当に難しくて、それを話すことで嫌な気持ちを抱いたりする必要性があるかないかを見分けるのは私の自由だし、そしてそれが自分の元気や気分で変えていいということ。その大前提を改めて納得できたというような。

 

全部が全部同意で、書いてあるとおりにするというわけではなくても、一つ網羅的にまとめられたマニュアル本として手元においておくのにとても意味があるから、手に入れてよかった。

 

ちなみに韓国と日本で、徴兵制があるかないかは大きな違いと思ったけれど、根本を流れる考え方はあまり違わないと思いました。

 

 

差別と性別

「女性は権利権利うるせー」っていう人はいるだろうし、「男性だってつらい」って気持ちはそりゃあ大なり小なり感じたことない人っていないだろうな、わかる。

 

だから、この本で紹介されている下記のような、よくある発言がでてくるのは、わかる。

 

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[イ・ミンギョン「私たちにはことばが必要だ」より]

 

「男性だってつらい」というのは本当にそうで、必要なことは

「女性が男性より得をする社会にすること」

ではなくて

「誰もがその属性のステレオタイプに苦しめられることのない社会にすること」

だから、男性にプレッシャーを与えていたり「男性らしく」の中に込められている息苦しさも取り除いて、男性だってピンクのスカート履いていい、人前で悲しくて泣いても「男のくせに」なんて言われるべきでないし。

 

ただその一方で、一つ男性と女性で決定的に分かれるのは、やっぱり女性は差別される側であるということ。女性という属性だけで、選択肢が狭まったり、不快な言葉を投げかけられたり、弱いが故に暴力の対象にされることがあるということ。

 

差別ってされたことのある人にしかわからない、暗さ、つらさ、怒り、それに気づいた瞬間のずーんと重たい気持ちがあるし、それは一回で終わらず継続するもの。この経験を何度も経験して自分の無力さを感じるかそうでないかは、やっぱり「強者 vs 弱者」の構図になる。

「あなたには私の気持ちなんかわからない、って言われたら終わり」という気持ちはわかるし、そんなこと言ったら「拒絶された」と傷つく気持ちもわかるけれど、でも、事実として、特に怒りや悲しみという感情は当事者にしか語れない部分がある。

本当にそうなんだってことに、一瞬でいいから思いを馳せてほしい。

 

そりゃあ男性だって、

一度海外に住んで、アジア人だから軽く見られたり馬鹿にされたり、っていうのを経験しただとか、

日本にいても障がいを持っていたり、貧困に苦しんだり、というのとか、

その他、見た目や持っているものが違うとかで差別を受ける経験があった人はもちろん共通してわかる部分も何かしらある。

(そうだとしても、一つ一つの差別は違って、その差別の特殊性と、それを許容する社会で長年生まれ育つことはまた違うのだけれど)

 

 

でもたとえば私の友達や仕事で会う人にもたくさんいる、

健康で、お金にも困っていなくて、程度の差はあれ社会生活を送れている男性

というのは、

「自分はすごく特殊で差別されない状況にいるから、差別される立場の人の気持ちを本当には味わったことがないんだ」

というのを時々、一年に3回でいいから考えてほしいと思ったりします。

 

こういうこと書くと嫌われそうだけれど、まあしょうがない。

反論は先着3名まで受け付けます。4名以降はつかれるから。

 

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多くの男性はこんな本読みたくないかもだけれど、それでもちょっと自分を comfort zone の少し外に押し出して、読んでみてくれたらパラレルワールドが見られるかも。

「え?こんなにひどくないでしょ?」

って思うかもしれないけれど、まあだいたい社会はこんなものだし、どうしても信じられない場合は親しい女性の友人、恋人、家族と話してみてほしい。

聞かれた側には、相手が納得するような説明を拒否する権利があるという前提で。

 

あともちろん、モヤモヤすること言われた時にどう返したらいいのか準備をしておきたい女性たちにとって、示唆に富むことがたくさん詰まっている本。

 

おわり

 

追伸:もちろん、それでも、想像力と頭の良さを駆使して寄り添って考えてくれる男性たちを私は知っていますよ。言わずもがな。