【読書】 ゲルノット・ワグナー & マーティン・ワイツマン「気候変動クライシス」

 

ゲルノット・ワグナー(ハーバード大学工学・応用科学リサーチ・アソシエイト、同大学環境科学・公共政策レクチャラー)と、マーティン・ワイツマン(ハーバード大学経済学教授)という二人の経済学者による気候変動に関する本。

 

気候変動クライシス
 

 

 
前半、ちょっと読みにくくて苦労。
翻訳もあるけど、きっと原文がもともとストレートじゃない言い回し(ウィットに富んだ?)で書かれているからという気がする。それが日本語になるとやや普通じゃない言い回しになって、すっと入ってこない。しかしこの自分が素人のトピックを英語で読んだらもっと理解できない。
 
いずれにせよ、前半は、地球の温度上昇がどのくらいの度数になるのか「とにかくわからない」ということに膨大なページ数が割かれてる。
 
予測、確率、可能性、推計、推定、前提、仮定…
 
気候変動はわからないことだらけ。
 
そして、その地球の温度上昇による被害のコストはどのくらいなのか。どのような式で金銭換算するのか。何をどう定量化するのか。
いろいろまだわかっていないから、いろいろはっきり決められない。
 
それだけ複雑で不確実性が高いことだというのがとてもよくわかったけれど、その不確実性を説明するのにこれだけページが必要なのがこれは大変だ。
 
あと、脚注が多い割に基本的な概念の説明がなく進むので、素人の私はいろいろググりながら読まないと理解できなくて時間がかかった。
 
(でもどんな分野でも言えることだけど、背景知識がある人にとっては、いちいち基本の説明ない方が読みやすいですよね。)
 
 

もっと知らなきゃいけないこと 

あとこの議論をもっと理解するには、ウィリアム・ノードハウス教授が作ったDICEモデル(Dynamic Integrated Climate-Economy:気候と経済の動学的統合モデル)のことももっと理解しないといけない。
 
DICEモデルは、「地球温暖化の統合評価モデル (Integrated Assessment Model、IAM)」の一つで、環境問題を経済学の視点からとらえ理解するのに貢献したモデル。
ノードハウス教授はこれを中心とした業績が讃えられ、2018年のノーベル経済学賞を受賞したけれど、同時にこのモデルの前提もそもそもいろいろ不確定だというところがすごい。ノーベル賞取るようなことでも、きれいに解明はやっぱりされていなくて、そのモデルを作ったことがとにかくすごいから賞になる、というくらいいろいろわかってない。
 
 
でもとにかく、よくわからないことはよくわからないこと、どういう点が特によくわからなくて議論になっているのか、ということについて大まかにだけれど流れをつかめたので、苦労しながら読んでよかった。
地球の未来に大きなインパクトを及ぼすことが間違いない気候変動について、どういう議論や考え方があるのか知ることがおもしろいのは間違いないし。
 
あと、後半にたくさんページを割いて批判されていた、ジオエンジニアリングのこと。 
例えば大気中に硫黄の微粒子をばらまいて、日光をはねかえすことで温暖化を緩和するという理論があるとか、他にも世界中の屋根を白く塗る、海に鉄分を撒いて(プランクトンの育成を促進して)CO2を吸収させるとか。
いろいろ温暖化への特効薬のようなことはやはり考えられていて、でもそれによるさらなる悪影響がとんでもない状況を及ぼす可能性も大いにある中、規制しないのは危険という話。(しかもお金持ちの人がパッと勝手にやってしまう危険性もあるものだし。)
 
 

喧々諤々な気候変動を巡る議論 

気候変動をめぐる議論は、地球これからどうなってしまうのかと心配になりつつも、一方で温暖化懐疑論も大いにあって(温暖化対策されると経営に大打撃があると考えるグループがそう言っているだけなのか、本当のところはわからないけれど)、目に見えないものについて真っ二つ(とその間の膨大ないろいろ)に意見がわかれていること、それに人々の仕事や、研究、利権や思惑も絡んでいることを考えると、たしかに難しい分野なんだな。
(最後の訳者あとがき(山形浩生さん)ですら本書の内容をわりと批判してる部分があって、めずらしいというか、よほど一枚岩になるのは難しいテーマなのだな、と。)
 
同時に、社会課題において「良い悪い」できっぱり分けられる分野があるだろうか、という。今の業界だって、
 
 「そもそも途上国への開発援助は必要か?」
 「開発援助が自力での発展を妨げているのでは?」
 
みたいな根本について考え込んでしまう時がけっこうある。しかもわりと頻繁に。
 
同時にふと思ったのは、今の分野は「何かを変える。」、つまり貧困とか、社会の不平等な慣習とかを変えるということに取り組んでいるのに対して、
環境課題については「今の地球から(温度を、生態系を等)変えない」という点で、根本の部分での違うのかも。
 
一方で長い地球の歴史の中で気候や生態系はこれまでも激変してきたことを思うと、変わるのは必然だという見方もあって、それはどうなのだろう。もはや哲学の世界?
 
とはいえ地球は既に0.8℃温暖化していて、自然災害の数も規模も増大して、それによって人々が命を落とし、築いてきたものを破壊され、災害対応費用もうなぎのぼりという、影響を受けているのは目の前の現実。止めないと、もっと多くの被害を被ることになる。
 
いろいろとわからないことを考えさせられると共に、まだまだ学ばなきゃいけないことが膨大にあることを再確認する読書だった。 
 
 
 
 

(著者の一人のワイツマン教授はこのノーベル賞の一年後くらいに自殺で亡くなられています。ご冥福をお祈りします。)

 
 

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おわり